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腑抜けの三郎―北条重時―66

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 その年は火事がよく起きた。特に九月二十二日の大火には鎌倉中が大騒ぎになった。十二月にもまた政子の居所で火事が起きる。
 失火の報告に対し、政子は放火の可能性を強く示唆した。幕府は警戒を強める。
「屋敷周りの警備はこちらで増やすが、邸内の警備はお前に任せる。三寅様の御身をしっかりとお護りするように」
 泰時の言葉に重時が頭を下げた時、政子がさらりと大変なことを口走った。
「なら、私もここに身を寄せるわ。要人の居所があちこちでは警護しづらいでしょう?」
 硬直する重時をよそに、政子は微笑む。
「重時、よろしく。お世話になるわね」

 女官を多数引き連れた政子は邸内を飾り立てていく。質素だった邸はあっという間に華やかになった。でも香のものがきつくてたまらない。三寅のむずかりはひどくなるし、重時はつくづく自分の運のなさに嘆息する。

「やつれてるなぁ」
 声をかけられ、重時は眠い目をこすり振り返った。同僚の結城朝広だ。朝広は重時と同じように宿直をしたり、三寅の遊びや勉強の相手にもなった。だが朝広は勤務御家人。任のない時は自宅に帰ることが出来た。
「やつれもするよ」
 重時はぼやく。昨夜もやっと三寅を寝かしつけたと思ったら、政子達のお喋りに付き合わされたのだ。いい年になったのに未婚の重時は女達の格好のからかい対象だった。

「重時殿は決まった相手はおられないの?」
「重時殿を気にしてる子は多いんですよ?」
 目配せをし合う女達に重時は曖昧に返事をする。くすくす、ひそひそ。窺う視線に何かを含んだ笑い声。重時は困って下を向く。
「三寅様がお小さいので、今はまだ……」
 父も結婚するなと暗に言っていたし。素直にそう答える重時に女達は悲鳴を上げる。
「そんなことおっしゃっていては、ずっと結婚出来ませんわよ」
「そうですわ。お可哀想に」
「でも心に決めた女性はいるのでしょう?」
 思い浮かぶのは音の顔。でも重時は首を振った。
 と、一人の女官がにじり寄った。
「実はね、私の友人で重時様のことをお慕い申し上げている子がいるんですよ!」
 どきりとする。腑抜けと言われる自分を慕ってくれる子がいる? もう少し詳しく聞こうと思った時、その女官が形相を変えた。
「痛っ! 髪を引っ張らないでよ!」
 驚く重時の前に別の女官が身を乗り出す。
「ごめん遊ばせ。抜け駆けは許しませんわよ。ね、重時殿、実は私の友人にもね……」
「ちょっと! あなた、友人だなんて言って本当は自分を売り込む気でしょう!」
「ま、はしたない! あんたこそ何よ!」
 重時の目の前で掴み合いの喧嘩が始まろうとしていた。思わず後ずさる重時の袖を引っ張る別の手。驚いて振り向いたら、古参らしき年配の女官がにたりと微笑んでいた。
「重時殿、実は私の娘なんですけどね……」
「あっ!」
 若い女官二人がその場で相手を掴み合いながら短い悲鳴を上げる。が、さすがに古参の女官には手を出せないのだろう。二人の目は蛇のように鋭く、唇はギリギリと噛みしめられ酷い形相になっていた。
 怖い。女の人って口より前に手が出るんだ。重時は腰を抜かしかけたその時、政子の冷静な声が響く。
「いい加減になさい。重時は駄目ですよ」
「まぁ、どうしてですか?」
 最初に声を上げた女官が訊ねる。政子は扇を下ろして閉じると重時をじっと見た。
「重時には相手が決まっていますから」
「え、どなた? どこの姫君?」
「源氏の姫よ。そうでしょう? 重時」
 ざわめく女達の中、重時は黙ったまま政子を見返した。返事が出来なかった。その意味する所がわかったから。でも……
「あ、えーと、そろそろ三寅様が夜泣きをする頃なので失礼します」
 慌てた風を装って部屋を退出する。実際に動揺していたらしく三寅の部屋を素通りして庭へと出てしまう。
 薄い明るい空には大きな月が出ていた。音の手を引いて御所を抜け出した日のことを思い出す。遠い過去の、美しい景色の、切ない想い出。あの逃走が成功していたら、今頃どうなっていたんだろうか。
 

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