カテゴリー:鎌倉歴史小説(頼朝・政子・北条氏)
「別当殿、武州殿がお呼びです」 呼ばれて我に返る。三浦義村の四男の光村が立っていた。彼も小侍所に詰める一人だ。「光村、『別当殿』って呼び方は止めてよ」「いえ、これは執権殿の…
その年は火事がよく起きた。特に九月二十二日の大火には鎌倉中が大騒ぎになった。十二月にもまた政子の居所で火事が起きる。 失火の報告に対し、政子は放火の可能性を強く示唆した。幕府は警戒を…
将軍様はお忙しい。京から文が、諸国から報告が届く。朝も夜もない。だが将軍はまだ数え二つの小さな若君。よって、すぐに飽きる。泣く。使いが文言を述べていても聞くわけがない。よちよち歩き回る。…
その夜、義母の伊賀の方が重時の別当就任に異を唱える。 伊賀の方の剣幕は凄かった。「どうして長く鎌倉を離れていた重時殿が別当なのです? 政村の方が適任です!」「重時は京…
「小侍所? 何ですか? それ」 重時は目を瞬かせて父の顔を見た。「小侍所は三寅君専従の御家人だ。有力氏族の子弟を中心とする。その長に就任せよ」 重時はちらと義時を仰ぎ見…
六月二十五日、重時は九条三寅の供として六波羅より鎌倉に向けて出発する。鎌倉に入る直前、迎えの人々と合流した。「よぉ、久しぶり。大役を仰せつかったってのに相変わらず腑抜けた顔してるじゃ…
『 腑抜けの三郎 』 ―北条重時― 目次第一章「江島の辯才天」01 02 03 04 05 06 第二章「海賊の守り主 龍女オトヒメ」07…
そんな中、その京と鎌倉の間にあって、のほほんと無関係を装う男がいた。猫じゃらし片手に猫達の間を歩き回る男、北条重時。「ほらほら、喧嘩しないの。ご飯はいっぱいあるんだから譲り合えばいい…
第六章 「猫と侍と玉と寅と毒」 一二一九年、二月。その人は御簾の内側で晴れやかな顔をして笑っていた。「尊長よ、実朝が死んだ。呪詛が効いたの」 満足気な声に一人の僧が深く頭を下げる。…
だがその数刻後、朝夷名義秀は死に瀕していた。「父さん、なぁ……しっかりしろよ」 細い、細い声で義秀に話しかける巴。「さっきまであんなに元気に吼えてたじゃんか。これ…