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『 腑抜けの三郎 』 ―北条重時― 目次第一章「江島の辯才天」01 02 03 04 05 06 第二章「海賊の守り主 龍女オトヒメ」07…
だがその数刻後、朝夷名義秀は死に瀕していた。「父さん、なぁ……しっかりしろよ」 細い、細い声で義秀に話しかける巴。「さっきまであんなに元気に吼えてたじゃんか。これ…
その頃、和田の兵達はぞくぞくと船の周りへ集まっていた。しかし引いた波によってどの船も浅瀬に乗り上げ、船体は大きく傾いでいた。「くそ……こんな時に津波が来るなんて」 ガコン…
その頃、義秀は矢を受けながらも立ち上がっていた。和田の兵達に大声で檄を飛ばす。「武器と鎧を捨てて海に潜れ! 泳いで船まで辿り着くんだ! 一人でも多く逃げろ!」 音は懸命に…
鎌倉の山に背を向けた。海を見る。海はいつもの通りに優しく広い。空を見る。雲はどこか重く、でもいつもの通りに知らんぷりをして頭上を過ぎていく。「テメェら、よく聞け! 俺は死なねぇぞ…
夕刻、和田軍は完全に由比が浜に押し込められていた。「おのれ義村! 裏切るばかりか我先にと攻めるとは! そんなに恩賞が欲しいか!」 吼える義盛に、返す義村。「三浦一…
日付が変わる頃、雨が降り始めた。月が出て雲の影もないのに小雨がぱらぱら降り落ちる。空気が生暖かい。ぴりぴりした何かを含んでいる。 混乱の鎌倉の町を重時は走っていた。あちこちで鳴り…
その頃、修羅の場は南庭へと移っていった。義秀はまさに鬼神であった。彼に挑んだ名のある武将が次々に倒されていく。御所方の御家人は義秀を取り巻き、いかにして彼を止めるかと息を詰めていた。…
その頃まさに御所の南門前では、馬に騎乗した義秀が御所内に攻め入らんとしていた。「我こそ朝夷奈義秀! 傍若無人の義時の所業を諌める為に起った。将軍をたぶらかし権威を欲しいままにする…
「祖父上、父上! どうかお留まり下さい。叔父上方もどうか冷静に。御所様に弓引くなど、とんでもないことです」 和田義盛と、その嫡男・常盛に必死で懇願するのは、常盛の嫡子・朝盛だった。…